オバマ演説から希望をもらった日本の若者たち

コピペでないレポートから見える若者の希望と絶望

 オバマさんは私たちも一緒にそこまで行きたいと思わせてくれた”
大学の非常勤で教えている身でも、期末試験の季節になると、膨大なレポートの採点に忙殺される。最近の大学生はネットのコピペでレポートを済ますとテレビ番組で冷やかされる事が多い。そういう学生もいるだろう。
 しかし大半は違う。真面目にレポート課題と取り組み、よく調べて、自分の文章を書いてくる。瑞々しく柔らかな感性の文章に触れたときは嬉しくなって、これまでの苦労も吹き飛んでしまう。
 今年はオバマ論を書いてくる学生が多かった。特に就任演説に感銘を受けたとか、オバマの言葉に希望をもらったという理由で、何か文章を書きたくなったようだ。
 オバマ演説の中の気に入った文章を引用し、「政治家の演説はこうあるべきだ。オバマ氏の「チエンジ」には、「歩いている道の先に明かりを灯し、そこまで行きたいと思わせるような前向きなところがある」という論旨があった。
 日本の政治家では小泉氏の言葉はダントツの力と情熱を感じさせたが、あの「ぶっ壊す」という言葉は、「いま自分たちが歩いている道をもぶっ壊されそうで、暴力的で後ろ向きな感じがあった」と比較している。
 しかしオバマ氏の語りは、日本の若者にも感動を与え、未来への理想と情熱をかきたて、政治を語る希望を蘇らせたようだ。
 確かに、日本の政治家の言葉にはオバマ氏のような感動の物語がない。物語がないということは夢も希望もない、ということでもある。
 いまは世界大恐慌かもしれないが、オバマ氏のように明日の希望を熱く語る指導者がいれば、国民の気分は少し楽になり、財布の紐も緩んで消費に金を使い、景気や経済も良くなるかもしれない。
 人が宝くじを買うのは、夢を買うのであり、本当に当たると思って買っているわけでもない。
 政治家たちが、国民一時金を出す出さないとケチな話を繰り返していても、国民の夢や希望にはならないのだ。かりに一時金が支給されたとしても、使ってしまえばそれで終わりだし、その後には怖い消費税が大口を開けて待ちかまえている。
 世論への影響が強いメディアも犯罪や暗い話ばかり特集して、これでもか、これでもかと世の中を暗く見せている。これでは景気が悪くなるしか道はないのだ。
 オバマ氏が、国税をつぎ込むメガバンクのCEOの年収額の上限を決めた措置は米国民の理解を得ており、85%の米国民はオバマ氏への期待を感じているようだ。国民に我慢を要求するオバマ氏は、自分自身にも辛い仕事を課している。このやり方を日本の政治家や日本政府は見習ったらどうかと思う。
 自分には甘く、強欲に既得権益にしがみつき、底の抜けたバケツのように税金を使いまくる霞ヶ関病棟を放置してながら、国民には非道を強いる日本政府と与党政権のあり方に、若者たちもほとほと辟易している様子がわかる。
 日本はどんなことがあろうと変わらない、と思いこんでしらけていた若者たちが、オバマ氏の米国に希望を見いだしたのは、皮肉なことである。
 ならば、どうすれば日本は変わるか。チエンジ世論を作るにはメディアの役割が重要だが、テレビも新聞も頼りにならない。既成メディアは堕落しきっていてダメだから、インターネットに期待したい、というレポートがたくさんあった。
 オバマ氏がUチューブやSNSなどの新しいネット・メディアを駆使してチエンジの原動力にしたことに希望を見いだしているようだ。米国の若者たちはネットに吸い寄せられるようにして、オバマ氏の草の根の支持基盤を作っていった。
 なるほど日本にもその目はある。しかし真の変革をもたらすには、ネットの現状を変革する必要がある。誹謗中傷の書き込み、噂の垂れ流し、無責任な言説などで知られるネットを健全な世論の場にするためには、「ネットの変革」こそ重要な課題なのである。
 心ある若者たちが、ネットの変革に乗り出し、ネットを健全で嘘のない世論形成の場にすることに成功すれば、日本の本当の変革も夢ではない。
 期末の学生のレポートを読みながらそんなことを考えた。