オバマ大統領は世界のリーダーになるか

Tshibayama2009-01-22

ケネディの名演説超えたと米国メディアも絶賛
米国の建国精神の再生を訴える

 オバマ大統領就任演説をCNNテレビのライブ中継で見た。抑制された声とリズム感、選び抜かれた言葉、言葉をつなぐ間の一瞬の沈黙、、250万人も集まった聴衆たちは、一言一句をも聞き漏らすまいとしているように見えた。オバマ氏への信頼感、期待感がいかに大きいかがわかる。(写真=Wikipedia から)
 「建国してまだ若いアメリカはここまで来た。しかしいまだ「旅」の途中である。これから先さらに厳冬の険しい季節がたちふさがるかもしれないが、希望を捨てることなく乗り切ってゆこう」と決意を語る。感極まって泣き出す人たちが大勢いた。オバマ氏の語りには、詩人が魂の奥からこんとわき出す言葉の泉があるかのようで、次々と詩を紡ぎ出しているように見えた。
 米国には「明白なる運命」(マニフェスト・デスティネイ)という言葉がある。米国人がフロンティアスピリットの理想を求めて「永遠の旅」を続けることをいう。これは米国の建国精神が描いた米国人の魂だが、オバマ氏はリンカーンキング牧師ケネディなどを頭に描きながら、「旅」という言葉を使った。(私はかつて『ヘミングウェイはなぜ死んだか』(集英社文庫)という本でケネディと文豪ヘミングウェイの往復書簡を紹介し、米国の建国精神についてケネディ記念館などを訪ねて書いたことがるが、オバマ氏の演説内容にもこれと類似のところがある)。
 世界の多様性、異文化や異なる立場の人々への想像力を働かせ、よこしまな脅威や暴力、テロのない世界、核兵器のない世界、万人が平等で自由が侵害されないない世界の理想を語るオバマ氏の演説内容は、これまでの超大国の大統領演説とは趣が違う。強欲な拝金主義やアメリカ一国主義、単独行動主義を捨てよう、と呼びかけているのだ。
 米国の本当の強さは、過去を乗り越え、歴史を前進させ、黒人系の自分を大統領に選んだ国民の不屈の努力と知性であり、正義と平等の民主主義を実現させようとする建国精神にあると訴えた。優れた米国の精神主義を回復させて米国経済を立て直し、戦争と紛争で傷んだ世界の絆と人間愛を取り戻そうと熱く語った。
 現世的なサクセス・ストーリーであるアメリカンドリームを、理念の夢に置き換えることでアメリカンドリームの精神を再構築しようというオバマ氏の演説は、優れて知的かつ文学的な表現である。聴衆はオバマ氏を選んだ選挙民だけではない。歴代の大統領や反対党の共和党の幹部、議会のお偉方たちが聞いている。ブッシュ時代を具体的な事例をあげて批判すれば目先の反発を招く。オバマ氏はまるで「現代の神話」を語るような文学的かつ抽象的な表現ながら、慎重に言葉を選んで自分の主張を述べた。そのうえで、これまでの米国の旅を指導してきたブッシュ氏の労苦をねぎらったのだ。”敵ながらあっぱれ”と思わせるに足る礼儀正しさだった。
 今回のオバマ演説はあの有名なケネディの大統領就任演説を超えたと米国メディアが評価するゆえんだ。
 その巧みな表現技術は素晴らしいものだったが、国民につきつけた要求は厳しい内容でもあった。すぐには何も解決できないし、経済も良くはならない、しかし私と共に苦楽を共にし、同じ希望に向かって祖国に貢献し前進して行こう、と呼びかけた。 
 オバマ氏の偉大なところは、オバマと一緒なら、多少の苦労は共にしてもいい、生活が苦しくても厭わず辛抱しよう、明日への希望を持とうと全米国民に思わせたことだ。あのオバマ演説と就任式の様子を見ていると、アメリカは蘇るのではないかと率直に思った。間違いをすぐに糺そうとする米国精神は衰えてはいないからだ。
日本の現実に目覚めて愕然とした
 CNNの就任式中継が終わり、つかの間の高揚感が去って現実に目覚めたとき、米国民がすごくうらやましくなった。わが祖国日本の現実は何ひとつ変わっていないからだ。いったい日本の指導者とは何者なのか?
 国内ニュースを見ると、相変わらず自民党のお家騒動、国民一時金支給問題が繰り返されており、テレビを見ると、身の毛のよだつ凄惨な殺人事件や犯罪報道、下品なお笑い、料理番組のオンパレードだった。
 消費税を上げて国民から税金を巻き上げる方法しか考えない与党政府、官僚の連中は自己中心の利得しか目がなく、国民に希望を与える「言葉」や「人間愛」が存在していないのだ。愛国心もない。愛国心を唱える連中はいるが、国益=自分の利益と勘違いしている。
 少なくとも、愛国を唱えるオバマ氏は国民に一時金を支給するなどとはいっていないし、国民にさらなる負担と貢献すら求めている。しかし米国民は祖国再生のためにそれを喜んで受け入れるつもりでいる。
 この日米落差は何を意味するのだろうか。つかみ金をばらまいても国民は喜ばないくらいのことがわからないのだろうか。
 麻生首相は漢字も読めないというから、オバマ氏のような格調の高い知的、文学的な演説は望むべくもないが、得意の漫画表現でもいいから、国民が感激して涙を流すような「言葉」を、一言でも聴かせてほしいものだ。
 オバマ氏の演説には国家と国民に対する愛があった。それが指導者の愛国心というものである。そこが日米指導者の心根の決定的な違いだ。
 日本国民だって自公政権のめくらましの一時金などで騙されないレベルの知性は持っていることを忘れてもらっては困る。あまり国民を馬鹿にするなといいたい。国民は嘘のない真実と祖国を愛することができる「言葉」を聴きたがっている。          (柴山 哲也)

 オバマ大統領の以下の言葉はとりわけ心に残ったので付記しおきます。

  「我々の挑戦は新しいものかもしれない。我々がそれに立ち向かう手段も新しいものかもしれない。しかし、我々の成功は、誠実や勤勉、勇気、公正、寛容、好奇心、忠誠心、愛国心といった価値観にかかっている。これらは、昔から変わらぬ真実である。これらは、歴史を通じて進歩を遂げるため静かな力となってきた。必要とされるのは、そうした真実に立ち返ることだ。」(読売新聞 1月21日付 ウェブサイトより)