官僚クーデター国家日本の治療

 渡辺善美氏の乱は官僚独裁政治をチェンジできるのか
 いまや、オバマ新大統領のエネルギーを分けてもらうしか打つ手なし?

 渡辺善美氏の乱がマスコミを賑わせている。氏の行動にはパフォーマンスではない政治的真実が含まれていると信じたい。この国の停滞打破には革命的な「変化」が必要だと、100%に近いの国民は考えているからだ。
 渡辺氏のいう「官僚政治打破」はしごく当然のことで、天下りの禁止、政官癒着の阻止、官僚組織の無駄を省くなどは民主主義国家のイロハである。税金を食らう官僚だけが”おいしい生活”をエンジョイしている国など、まさに北朝鮮と同じ、ではないか。
 ところが、いまごろになって渡辺氏たちが言い出した「官僚独裁国家日本の害毒」については、もう20年も前から指摘されてきたことだ。80年代バブルがはじけ、冷戦が終わり、55年体制の終焉のころ、最初に指摘したのは在日オランダ人ジャーナリストのウオルフレン氏だった。
 彼は「日本は民主主義国家の装いはしているが、その内実は官僚独裁国家で、政治が官僚をコントロールする力量がなく、政治家は族議員として政財界と癒着している。逆に政治家が官僚に支配されており、日常的に官僚によるクーデターが起こっている」といった。
 ウオルフレン氏の主張は『日本権力構造の謎』に詳しいが、要するに官僚政治を打破しないと日本は滅びる、というのが彼の主張の骨子だった。
 当時、ウオルフレン氏は日本の支配層の最大の天敵”嫌われ者”で、会議などの場で彼の名をいうことはタブーだったし、マスコミでもタブー視されていた。というのも、ウオルフレン氏は政財官の鉄の三角関係にマスコミを加えて鉄の四角形の癒着が、日本の官僚独裁政治を支えていると指摘したからだ。
 政財官とマスコミを敵に回すと、この日本では生きてはいけない。ウオルフレン氏の主張の正当性が増せば増すほど、彼は日本から”追放”されていった。それがつい20年ほど前の話である。
 いま渡辺氏の乱を見ていると、隔世の感がある。しかし前行革大臣の渡辺氏が唱えた天下り・渡りの禁止の法案を政令で骨抜きにして、逆に天下りや渡りを麻生内閣に認めさせようとする今度の官僚の強引さは、20年前の官僚の手法をもはるかに逸脱して、なりふり構わぬ暴挙・クーデターに出てきたという感じがする。
 次の選挙では自民党が野に下ることは確実だから、今のうちに消費税アップを法律化して既成事実を作ろうとする画策も、”血迷った”官僚の国民不在のクーデターなのであろう。
 クーデターというのは憲法や法を無視して力で権力の貫徹をはかる行為で、民主主義の敵である。このような国民や民主主義に対する敵対行為を官僚に辞めさせることが、最大の課題になっている。
 20年前に与野党政治家たちがウオルフレン氏の指摘をもっと謙虚に受け止めて機敏な対応をしていれば、少なくとも今日のように官僚独裁の癌が日本国中に蔓延することはなかったであろう。
 政治家たちはいまごろになって官僚独裁の癌病棟に気がついたのだろうか。時すでに遅し、ではないのか。自民党がご臨終を迎えるにしても、このままでは日本の政治や国民までもがご臨終になってしまう。
 長年指摘されながら、政治家にできなかったことを国民が考え、平成維新のために自ら行動すべき時期だ。
 日本の官僚組織の原点は明治維新を作った大久保利通のアイディアといわれるが、そういう古びた維新の官僚組織モデルを革新するためには、新しい革命的なアイディアが必要だ。
 大久保モデルは日本の自主独立を目指す富国強兵だったが、敗戦後の米国支配によって富国強兵は米国意思への追従に変化したものの、官僚が国民を支配する縦型の組織モデルに変化はなかった。米国にとってそのほうが日本統治がやりやすかったからだ。
 情けないけど自力変革の目がなければ、このさい、オバマ新大統領の「チェンジ」のエネルギーを”同盟国”にも分け与えてもらえないか、と他力本願もしたくなる。