真珠湾と「篤姫」の真実

Tshibayama2009-01-13

テレビも新聞も見ないで心が安らいだ正月
 正月は初詣(写真は八坂神社の神事)に出かけたほかは、読書や好きなDVDを見て過ごした。新聞もテレビも見ない生活だったが、そのぶんだけ世の中が明るく見えてきた。新聞やテレビが嘘を流し、犯罪のオンパレードで世の中をいっそう暗くしている。
元外交官の井口武夫氏の『開戦神話』は、日本の真珠湾奇襲をめぐる謎を追究した労作だ。井口氏の父は真珠湾奇襲時の駐米大使館の参事官として戦争回避のための対米交渉に腐心していたが、戦後は宣戦布告文書の対米通達遅れの責任を負わされた。井口氏は父の名誉回復をはかりたいとの思いから、この本を書いたのだという。
 旧日本軍の宣戦布告なき真珠湾奇襲により、日本は「汚い国家」「騙し討ち」と世界の非難を浴びたのだが、戦後60年余を経たいまだにその汚名は晴れてはいない。
卑劣、卑怯であることを最も恥とする日本人が、「真珠湾の汚名」をいまだに身にまとっているのだ。米国の9.11テロの時も「これは第2のパールハーバーだ」という論調が米国新聞で踊った。
 この本は父の名誉だけでなく、戦後貼られた日本の汚名を晴らしたいと考えた井口氏の古巣・外務省の戦後の怠慢を叱責する書でもあろう。 
 私は記者時代、宣戦布告文書の通達が遅れた理由と当時の外務省の外交責任の所在について深く取材し調べたことがある。実際、日本国民はいまだにその真相を知らない。時の米国大統領ルーズベルトの陰謀にひっかかって日本は真珠湾攻撃に引きづり出されたという陰謀史観がまかりとおっているのが現状だ。
 先に問題になった自衛隊幹部の田母神氏の論文もルーズベルト陰謀史観にどっぷりと染まっている。田母神氏だけでなく、れっきとした政治学者や歴史家までも根拠ななき陰謀史観を信じ込んでいる。(私はルーズベルトにはさしたる陰謀の証拠はなく、ルーズベルトを戦争に誘い込んだのはチャーチル英国首相だったと信じるに足る根拠は持っている。これについて書けばゆうに一冊の本が書ける。関連資料はイギリスの国立公文書館にあるチャーチル文庫の機密文書の中から集めたが、現在、『真珠湾チャーチル機関』というテーマで出版を考えている)。

末端職員の怠慢に責任転嫁して東京裁判から逃げた外務省幹部 
 終戦直後、外務省は極秘で通告遅れの内部調査をして、調書を文書にして保存していたことを私は突き止め、文書公開を求めた。相当のやりとりを重ねたあと、外務省はしぶしぶ文書の存在を認め、やがてメディアに公開したのだが、その文書を読んで私は唖然とした。通告遅れの理由は、米国の日本大使館に勤務していた末端の電信課員や通訳のバイト学生の能力が低く、タイプラーターを打つスピードが遅かったためという内容だった。その末端職員を管理する立場だった井口参事官ら中堅幹部の責任を問うているのだ。要するに、当時の東郷外務大臣や野村駐米大使、外務省幹部には何らの責任はない、ひとえに末端職員の職務怠慢が、宣戦布告文書の通告を遅らせたというものだ。 
 いまでもこれが通告遅れの定説で、東京裁判対策のために急遽、作成された内部調査報告書ではあるが、これ以外にことの真偽を突き止める資料は存在しなかった。しかし私はこの報告者には納得できず、外務省はほかに大きな秘密を隠していると考えた。日本が「汚い国家」として世界に喧伝された宣戦布告なき奇襲の原因が、このような些末な責任転嫁の文書で葬り去れてはたまらない、と思ったのだ。(これについて私は、雑誌「諸君!」(平成7年3月号)に「外務省としての秘密」を書いた)。 しかし井口氏の今回の著書はその疑問に答えている。対米通告遅れは、外務省と陸軍幹部の関与・合作によって軍事作戦の一部として行われ、日本軍の真珠湾奇襲攻撃を成功させるためのトリックだったということを明らかにしている。

戦後日本の政財界の大物が陰謀の立て役者だった 
 そのトリックを仕掛けた最大の理由は、宣戦布告暗号文書を外務省から駐米大使館に送っている最中に外務省に飛び込んできた、ルーズベルトから昭和天皇に宛てられた電報の親書だった。 
 実はルーズベルト天皇宛の親書に驚き、開戦通告遅れを仕組んだ立て役者こそ陸軍の強硬な主戦派で、戦後は日本経済界の重鎮として活躍し、政界ブレーンとして大きな影響力を奮った故瀬島龍三氏だったことが、井口氏の著書で示唆されている。また瀬島氏は旧関東軍参謀として旧満州国解体時の戦後処理を行い、多数の日本軍人のソ連・シベリア抑留に関与したとされるなど、謎の多い人物である。 井口氏の真摯な労作を手がかりに、真珠湾奇襲の真相を日本人の手で自ら明らかにすることで、日本の過去の汚名を晴らす必要があるだろう。東京裁判でどんな判断が下されていても、これは日本国民が自らの自立のために解明すべき重大な仕事である。
 この正月は、井口氏の本を読みながら、通販で購入した「篤姫」のDVDを見て楽しく過ごした。幕末維新を作った篤姫小松帯刀西郷隆盛大久保利通坂本龍馬勝海舟ら志士たちの清新な姿と愛国の情を素直に感じる取ることができた。素晴らしい日本人が幕末維新には存在したのだと再認識した。江戸城の無血革命を実現させた背景には、英国の利害がからんでおり、薩摩は英国の説得に応じたとの通説は知っていたが、篤姫小松帯刀や西郷、大久保らに働きかけて無血革命実現に大きな役割を果たしていたことは、このドラマで初めて知った。
いまの堕落し切ったテレビ文化を元気にしてくれる心のドラマだった。日本のテレビとは、吉本のおちゃらけと出演料稼ぎのタレント・文化人のワイドショーと安物の青春ドラマに占領された下卑た電子箱と思っているが、「篤姫」だけは思いがけないプレゼントだった。さすがNHKというべきか。いや、NHKがあれば民放はいらない時代が来ている。

篤姫の時代の日本は美しい国だったが 
 日本人は清廉を好み、卑劣を恥とし、戦乱を避けようとする平和の心根を持ち、他人を顧かる繊細な精神を持った民族なのだと思う。日本はもともと美しい国だったのだ。
 幕末の動乱の中で、江戸城無血開城を果たした日本人が、米国に宣戦布告なき卑怯な奇襲を仕掛けるということは信じられないことだ。幕末の日本には、ペリーが大艦隊を連れて浦賀湾に来航し、薩摩沖の海上には英国軍艦が威嚇しながら現れて日本上陸の気をうかがって挑発していた。
 当時の日本には軍艦も近代兵器もなく、幕末の志士たちは欧米列強に日本を植民地化され蹂躙されないために、欧米並みの富国強兵の近代国家を作って江戸幕府封建制に終止符をうとうと、命を賭して働いたのだ。そんな篤姫たちの愛国の想いと誇りを後世の日本人は、説明不在の卑劣な奇襲によって、めちゃめちゃに打ち砕いたのではないか。敗戦の坂を転がり落ちた無謀なる戦争によって祖国は破壊され敗戦国の地位に貶められた。私たちには、その打ち砕かれた日本人の誇りを回復させる歴史的な義務が存在している。
 
偽りの”維新改革ごっこ”はもうやめておけ 
 正月明け、麻生内閣の支持率が10%台に落ちたとメディアが伝えたが、何らの説明責任を果たせない”死に体内閣”なのだから当たり前のことだろう。国民に1万2000円?を支給することの是非を政治家が何ヶ月も議論しているような国家が、この地球上のどこにあるか。我々日本人はどこかの惑星にポツンと住むひとりよがりの民族集団でるあるかのような、非現実の錯覚に陥ってしまう。
 100年に一度の大恐慌の洪水に国民は足をすくわれ押し流されようとしているのに、政府高官や政治家たちは何の行動もしないでぐたぐたテレビの前で愚にもつかない弛緩したコメントを繰り返している。
 なのに、篤姫人気にあやかって、幕末維新の動乱期と同じだとコメントする政治家、評論家ばかりだが、中身のない言葉は空転して力を失うだけだ。結局、どこを探しても、篤姫も維新の志士たちも見当たらないことがはっきり見えてくる。 いやはや、オズの魔法使いが、平成維新の志士を探して来てくれるとでもいうのだろうか。
 ”幕末維新ごっこ”や”二大政党ごっこ”の遊びはいい加減にして、本当の政治革新と政権交代の決意を見せたらどうなのか。自民党を離脱した渡辺氏がいう「官僚独裁国家日本の堕落」はいまに始まったことではない。