森の中のビートルズ

concert

ダブルファンタジーフリージアの花
 八ヶ岳高原の八ヶ岳倶楽部で開かれたサマーコンサートに出かけた。
八ヶ岳倶楽部日本野鳥の会会長で俳優の柳生博さんが経営しているが、このアコースティクライブは、NHK番組でおなじみの息子さんの園芸家・柳生真吾さんが企画して、毎年、この時期に開かれている。
 バンドリーダーとボーカルは下田秀明さん、日本有数のトルン奏者・小栗久美子さん、ギターとボーカルの鹿内芳貴さん、ボーカルの鹿内悠子さん夫妻、今年からメンバーに加わったバイオリンの森川拓也さん、パーカッションの岡山晃久さんたち(=写真)。
 森の精を招くかのような小栗さんの優雅なトルンの響きからスタートしたコンサートだが、これにバイオリンの森川さんが加わると、一挙にテンポがジャス調に変化した。パーカッションの岡山さんのパフォーマンスで会場が盛り上がってくると、やおら下田さんがビートルを熱唱し始めた。

 私は毎年、京都からはるばるこのコンサートを聴きに八ヶ岳まで来ている。東京で朝日新聞記者をしていたころから、柳生家のご家族の皆さんと知り合い、以来、約20年間、八ヶ岳倶楽部を訪ねている。
 私にとって、サマーコンサートの目的の一つは、下田秀明さんのビートルズを聴くことだ。下田さんは理系の大学出身ということで、本職は学校の先生である。
下田さんは私より年下だが、私にとっても学生時代の思い出のビートルズだが、年をとるにつれ、”封印”していたところがある。グレイな現実に身を沈めて記者の仕事をしていると、ビートルズのラブ&ピースが面映ゆかった。
 しかし年に一度、八ヶ岳で下田さんのビートルズを聴くと、初めてビートルズを聴いたときの感動がよみがえってくるのだ。八ヶ岳の森では心おきなくビートルズを聴くことができた。
 真吾さんと下田さんは先生と生徒の仲だが、ビートルズ好きを通じた師弟の友情の絆は長年、続いているわけだ。

 黄色の花、って何だろう? ジョン・レノンバミューダ島の植物園で「ダブルファンタジー」の花に出会って感動し、このアルバムを作ったといわれる。
 最近、園芸家の柳生真吾さんは、この花がフリージアであることを突き止めた。
 そしてバミューダの植物園に、フリージアの花いっぱい運動、を始めた。すでに400人ほどの賛同者が集まっているという。凶弾に倒れたジョンの平和への意思をバミューダで再現したいのだという。バミューダだけでなく、日本でも種子島の植物園にフリージアの花いっぱい運動を広げるつもりだという。
 種子島といえば、日本に初めて鉄砲が伝来したところ。その種子島からジョンの「ダブルファンタジー」を通じて、彼の平和への意思を世界に発信し、バミューダ島とともに、世界平和をイマジンする発信基地を作りたい、という。

 コンサートでは沖縄の島唄のリクエストも出て、それに応えたボーカルの鹿内夫妻が熱唱してくれたが、ラストはジョンの「イマジン」で締めくくりになった。
 私は大学紛争世代の一人だ。ビートルズは青春のシンボルだったし、「ウイシャル・オーバーカム・サムディ」のジョーン・バエズの歌声は身近にあった。
 あっという間のように感じているが、あれから、ずいぶん遠いところに来てしまった。
 八ヶ岳森の中で聴いた「イマジン」のファンタジーが、世界中に鳴り響けばいい、と思う。
 ビートルズを聴くと、青春の愛読書だったヘミングウェイの『誰がために鐘は鳴る』を思い出す。失ったピュアなものを森の中で探す自分を発見している。