ポリトコフスカヤ記者の暗殺

ライスさんのもう一つのミッション

 北朝鮮への国連制裁決議の実行を求めてロシアを訪問した米国のライス国務長官には、もうひとつの仕事がありました。暗殺されたロシアのジャーナリスト、アンナ・ポリトコフスカヤさんの事件に対する警告です。ポリトコフスカヤ記者はチェチェン問題の深層をえぐる記事を書き、プーチン政権批判を強めていました。
 ライスさんは、暗殺事件に象徴されるように、ロシアの言論の自由が脅かされている、とプーチン大統領に対して直接、訴えかけたということです。
 ニューヨークタイムズによれば、「ロシアのテレビには言論の自由がなくなっている。活字メディアには辛うじて独立を保ったものがあるが、この事件で、ロシアのメディアの未来を非常に心配している」とも話したといいます。
 ライスさんは、ポリトコフスカヤ記者が働いていた新聞社の社長と彼女の息子をモスクワのホテルに招いて、哀悼の意を表したということです。
 アメリカはダブルスタンダードの国といわれます。超大国の軍事力を背景にして、北朝鮮に核の無条件廃棄を求めています。
 その一方で、ロシアでは言論の自由が危機に瀕し、ジャーナリストの人権が侵害されていることを問題視します。
 ダブルスタンダードというより、この両者を同時に実行しようとするところが、アメリカたるゆえんなのだと思います。
 軍事・経済のパワーと自由の理念が不可分の関係にあることがわかります。
この二つの相異なる要素を同時に見ていないと、アメリカを理解することができないのではないか。金正日は完全にアメリカを捉え損なっています。独裁者の辞書には、他者の自由という言葉が存在していないからです。あるのは自分の自由だけです。
 同盟関係にある日本人でも、こうしたアメリカの行動を身勝手な超大国のエゴイズムとみなす傾向があります。
 しかし、プーチン大統領の目の前で、ポリトコフスカヤ暗殺を非難できる人は、ライスさんを置いて他にいないのではないかと思います。
 ライスさんの論理は正論です。何があろうと、テロでジャーナリストを殺し、言論を封じることは野蛮そのものです。こんな当たり前のことがいえない世の中で、ホワイトハウスの要人が毅然として正論を述べたことに、正直、勇気づけられました。
 日本でも、加藤紘一議員の自宅が放火されてり、言論テロと思われる事件が起こっています。政治家もメディアも、あまりこの事件に言及していません。
 加藤議員のかつての盟友・小泉前首相も、米国のテロとの戦いに断固とした態度を見せながら、この事件にはそれほど断固とした態度を示してはいないように見えます。
 ものいうジャーナリストは、背中に不気味な世相を感じるようになっています。
 それに、かつて朝日新聞阪神支局が襲撃され、記者が殺傷された言論テロ事件が、時効となり迷宮入りしたことも、私にはひっかかています。
 日本も言論テロに甘い国なのかもしれません。