イラク分割論?
米イラク戦略見直しと北朝鮮への影響
イラク戦争が混迷の度を深め、イラクの責任を問われて米国世論の批判を浴びるブッシュ政権は危機に瀕しています。各地の選挙戦でも共和党候補のスキャンダルが噴き出して、共和党の不利が伝えられています。
来月7日の中間選挙のCNN世論調査では、民主党支持55%、共和党支持35%という結果が出ています。ブッシュ支持率は37%に低迷しているということで、このままゆけば米国の次期大統領は民主党のヒラリー氏ということになるかもしれません。
アメリカ中央軍からはブッシュ政権のイラク政策の見直し要求が出されました。こうした中で、イラク分割案が出てきたということです。
分割案は、民族別にスンニ派、シーア派、クルド派と3つの民族の居住エリアにイラクを分割することで、いまの内戦状態が収まる、というアイディアです。しかしホワイトハウスはこの分割案に猛反対しているということですが、こうした考えが出てくること自体、米国のイラク政策の行き詰まり、深刻さがわかります。
米国のイラク戦争は泥沼に入り、ベトナム戦争のようになってきました。”イラク敗戦のシナリオ"すらささやかれています。
2003年春、イラク戦争開戦から間もなく、私は『戦争報道とアメリカ』(PHP新書)を書き、米国の戦争報道の歴史をウオッチしながら、この戦争はベトナム戦争のように泥沼化する、と指摘しました。
当時の米国メディアには、まだそういう厳しい予測はなく、どちらかとういうと戦勝ムードが漂っていました。
米国には北朝鮮に関与する余裕がない?
その後、開戦理由になった大量破壊兵器疑惑が虚偽だったことが判明し、メディアはブッシュ批判に回りました。
しかしそれでも、戦況がいまのような最悪の展開になるという予測はありませんでした。見通しが甘かったといえます。
北朝鮮の核実験の制裁で、米国は北朝鮮に軍事的な対応をしている余裕がない、というのが現状です。米国は現在、イラクに10万の兵力を展開していますが、これを2012年ごろまで続ける必要に迫られています。大変な軍事的負担なのです。同盟諸国が相次いで兵を撤退させる中、イラク分割案はこうした米国の窮状を背景に出てきたものです。
しかし分割案を実行すると、イラク北部に偏在している石油資源が全土に及ばなくなるという欠点があります。ホワイトハウスの反対のほか、イラク内部からも反対論が出るでしょう。
北朝鮮は米国のこうしたイラクの窮状を見越して、核実験を強行しました。米国は北朝鮮に軍事力を展開する能力がないだろう。「船舶臨検」にしても、米国がどれほどの覚悟をもってのぞむのか、不明なのです。
いまのところ、外交能力も乏しい日本は米国の軍事力を頼りにするしかないのですが、イラクの帰趨が北東アジアにも大きな影響を与えることを認識する必要があります。
いま日本だけが、突出して戦闘的になり、勇ましくなることは、大変にハイリスクだということを、よく理解するべきです。