辺真一さんの言葉

 ジャーナリスト宣言、というTVのCMがあるが、記者が発する言葉が信用できなければ、いくら格好つけてみても、意味はない。 実際、信用できるジャーナリストは、そうたくさんいるものではない。
 在日韓国人記者の辺真一さんは、私が信用しているジャーナリストの一人である。その辺さんが、8日のTBSテレビの「サンデーモーニング」に出演し、安部総理のエピソードを話していた。まだ平議員だった安部さんと一緒に、韓国へ行き、韓国の国会議員と歴史認識に関するケンケンガクガクの意見交換をした経験があるという。
 8日、安部総理は中国、韓国訪問に向い、冷え切った両国の関係修復に旅だった。折しも、北朝鮮が核実験をすると世界を脅かしている。
 安部さんの右より、タカ派の対外イメージを懸念するTVコメンテーターの諸発言に対し、辺さんは、「安部さんはずっと同じ主張をしていて、ぶれていない。考え方がぶれていないから、交渉相手には信用されるのではないか」といった。
 辺さんのこの言葉を聞いて、安部さんの信頼できる一面を知った。辺さんは、権力者にすり寄るジャーナリストではない。自分の知り得た事実を誠実に語る人だからだ。
 安部さんが、時流に便乗して、右よりの姿勢をとり、世論に媚びる政治家ではないことがわかった。われわれは安部さんの思想に期待しているわけでなく、首相としての能力に期待している。国益を託しているのだ。
辺さんとは約10年前、ハワイで出会った。新聞社を辞めた私が、シンクタンクイースト・ウエスト・センターに滞在していたとき、北東アジアに関するシンポジウムがあった。辺さんは北朝鮮問題を追って、シンポジウムに参加していた。まだ拉致問題は明らかではなく、北朝鮮が核実験を行う力があるなどと、多くの日本人は思っていなかったころだ。
 夕暮れの海辺のカフェで、辺さんと北東アジアの多様な問題を話し合ったことを覚えている。初対面だったが、話がはずみ、辺さんは、北朝鮮への強い軍事的な懸念を話し、むしろ私のほうがこれを甘く見ていた。蒙を開かれた思いがした。
 以降、帰国後も辺さんと話すチャンスがあり、信用できるジャーナリストだと思ってきた。
当然だが、私は安部総理のことはほとんだど何も知らない。日米安保条約を締結した岸元首相の孫ということ、横田めぐみさんなど、拉致問題の解決に初めて熱心に取り組んだ政治家、というくらいである。
 それ以上のことは、新聞やテレビ、週刊誌が伝える安部イメージである。その安部イメージは相当に右寄りで、タカ派戦後民主主義も否定しかねない国粋主義的なものが、つきまとっている。
 CNNテレビでも、戦犯を祀る神社に敬意を表している、と報道している。
 しかし、メディアが作り、世間にばらまかれたそれらの安部イメージは、つぎはぎだらけの虚像かもしれない。辺さんの一言を聞いて、そう思った。メディアは、悪意あるイメージを容易に作ることができる。
 われわれは、信用できるジャーナリストを見つけ、その言葉を拾い集めることで、本当の安部イメージを作ってゆく必要がある。
 安部さんに何ができ、何を期待できるかを見定めることが重要だ。
 北朝鮮問題をはじめ、北東アジアはいま危険な火薬庫になりつつあるからだ。