靖国神社と報道ヘリ

 小泉首相終戦記念日(本当は”敗戦を教訓とする記念日”というべきだが)、に靖国神社を参拝しました。前からわかっていたことですが、新聞もテレビも大騒ぎです。
 例によって、早朝から官邸上空に各社がヘリを飛ばし、九段下までおいけかるという追跡劇が展開されました。
 阪神大震災やオウムの麻原逮捕、ホリエモン逮捕のときも同様のヘリ追跡劇が繰り広げられました。
 途中で事故でもないかぎり、十数分もすれば目的の神社に到達することはわかっているのに、まことに無駄なことをするものですね。ガソリン高騰の折から、燃料費もかかるし、騒音は出るし、環境破壊にもなる。
 ヘリを一機飛ばすのに、数百万もの金がかかるのです。そんな経費があるなら、もっと事前から靖国問題の本質を、丁寧に読者、視聴者に伝えておいてほしかった。若い世代の大部分は、靖国神社を知らない。戦争の歴史もほとんど知らない。大学生を相手に授業をしていると、彼らの無知がいたいほどわかります。
 中国、韓国からいわれるからではなく、靖国問題は第一義的に国内問題なのです。日本人の同胞があの戦争で300万人近くも亡くなっています。
 私の近辺や親戚にも戦死者がたくさんいます。赤紙一枚の戦死は”犬死”だったと思っている遺族がたくさんいます。戦後60年というけれど、多くの戦死者も遺族も救われていないのです。
 メディアは、日本の開戦から敗戦へいたるプロセスを渾身の力をもって総括し、その国策の誤りを摘出し、敗戦責任の所在を徹底追及する姿勢が希薄だったといわざるをえません。
 戦前、戦中に戦争を煽ったメディアには大きな戦争責任があります。さらに戦時下だけでなく、戦争の総括を怠ったメディアには、戦後責任があります。自らの戦争責任を総括することが、メディアにとって、戦後の責任だったのです。
 今回、自らの戦後責任を棚にあげて、にわか取材であれこれ報道する日本のメディアを見ていると、もはや噴飯ものです。
 歴史認識を口にしながら、自国の歴史をあまりご存知ないような”お歴”々が、したり顔で参拝の賛否を唱える図は、カリカチュアにしか見えないのではないでしょうか。
 私は最初から小泉首相靖国参拝を批判してきましたが、いまになって思うに、小泉さんの”決死の覚悟”だけが突出してしまいました。いや、外圧とメディアの包囲網が彼を追い込んだというべきかもしれません。
 この問題に関して、首相との対話がなかったのは、中国、韓国の首脳だけではなく、残念ながら、日本のメディアも同じことでした。首相の心の内がわからないままに取材を続け、ヘリを飛ばすことに執着する日本のマスコミとは、いったい何者なのですか?
 国民の多数は、なぜ今回、”国益”に反しても小泉さんが靖国参拝固執したかわからないと思います。
 私もよくわかりません。
 果たして小泉さんは、国民の前に巨大な躓きの石を残して去ろうとしているのだろうか。しかし私は、小泉さんだけを批判する気持ちにもなりません。