「天声人語」の小池記者の死を悼む

 朝日新聞のコラム「天声人語」を書いていた小池民男さんが、4月25日、食道癌で亡くなりました。
 新聞記者時代、大阪と東京の学芸部で一緒になったことがあります。すごい読書家で物静かな文学青年でしたが、辛辣な批評精神は旺盛でした。
 しかし気のいい人で、飲み屋にもよく行きましたが、饒舌を好む新聞記者のタイプではなく、煙草をくゆらしながら、人の話の聞き役に回っていました。
 東大法学部の丸山真男ゼミの最後のゼミ生でしたが、文学に深く傾倒していました。どこか孤高の詩人といった趣があり、異色のジャーナリストでした。

 小池さんは2004年3月まで、「天声人語」を書いていましたが、その後、体調を崩したということです。
 私が最後に会ったのは、2年以上も前のことで、東京・築地の朝日新聞ビルの中の、レストラン・アラスカでした。毎日、毎日、書き続けるコラムの仕事の大変さを語っていました。そういわないでいつまでも続けてくれよ、と励まして別れました。
 小池さんは、うん、といって苦笑いを浮かべていました。
 あのとき、頑張れなどといわずに、酒をつつしみ、身体をもっといたわれよ、と言葉をかければよかったのに、と思います。

 病床のなかで最後に書いたコラムは、「権力は腐敗する 弱さもまた腐敗する エリック・ホッファー」(朝日新聞、2006年4月26日)というもので、小池さんらしい辛辣なエスプリとペーソスがあふれた文章でした。 
 
 今年、1月にはテレビ朝日の日下雄一さんが亡くなりました。二人とも59歳で、かけがえのない同士たちの相次ぐ訃報に、言葉もありません。

 ご冥福を祈ります。